2019年2月 花粉症
花粉症 (季節性アレルギー性鼻炎:hay fever, pollinosis)
今年の花粉症ですが、昨年の夏の猛暑の影響を受け、花粉の生産に最も強く影響する7月~8月の日射量が多かったため、花粉が多くなる条件がそろって『例年通りの飛散~やや多めの飛散量』となると予測されます。しかしながら、飛散開始(1cm²に1個以上の花粉が連続観察された初日)は、昨年秋が暖かかったため休眠打破が遅れ、例年よりやや遅い2月15日頃以降と予想されていました。予想通り、先週から花粉症で来院される患者さんが急に増えています。
花粉症の原因の約70%がスギです。スギ以外でもヒノキ、カモガヤ、ブタクサ、シラカバなど約60種類の花粉が原因物質となりえます。人口の約15~30%が花粉症といわれ、年々増加してきています。3大症状はくしゃみ、鼻水、鼻詰まりで、完全に治すことが難しい病気でした。なお、花粉が原因である季節にだけ症状を起こすものを「季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)」と呼び、ハウスダスト(ダニの糞など、カビ、ペットの毛などが原因で一年中、症状のあるものを「通年性アレルギー性鼻炎」と呼びます。
鼻の中は、微生物の侵入を水際で防ぐ最前線(局所免疫)です。鼻腔内に侵入してきた異物に対し、狭い入口・鼻毛で妨害、鼻水で排出します。異物が鼻粘膜に到達・接触すると、粘膜に存在するマクロファージが捕食・破壊しつつ、その特徴を捕らえ、これを異物(細菌、ウイルス、有毒物質など)と判断すると、伝達物質が放出されて抗体を産生し、化学伝達物質:ヒスタミン、ロイコトリエン等が放出されます。“花粉症”は、この防衛システムが過剰に働き、肥満細胞から大量の化学伝達物質(ヒスタミン、ロイコトリエンなど)が放出され、過剰な免疫反応となります。
ヒスタミン→鼻粘膜の知覚神経→くしゃみ中枢→迷走神経(遠心路) → くしゃみ
→血管運動分泌中枢→副交感神経→分泌腺→ 鼻汁分泌
ヒスタミン・ロイコトリエン→血管→毛細血管拡張、透過性亢進、好酸球の浸潤
→血漿成分が漏出し、鼻粘膜浮腫 → 鼻 閉
治療
① 抗原の除去と回避 1)室内の掃除・ダニの除去、2)花粉の回避、3)ペット(とくにネコ)抗原の減量
② 薬物療法 症状を押さえ込むのを主な目的とした治療法です。第2世代の抗ヒスタミン、化学遊離抑制薬、抗ロイコトリエン薬などの抗アレルギー剤が主流で、症状を軽減します。
③ 特異的免疫療法(抗原特異的減感作療法) 少しずつ長期間に渡り抗原を提示し続けると、免疫反応が起きなくなる「免疫寛容」を利用し、原因となっている抗原を、少しずつ量を増やしながら注射していきます。
④ 手術 1)レーザー焼灼術、2)粘膜下鼻甲介切除
⑤ 舌下減感作療法(Sublingual Immunotherapy、SLIT、スリット舌下脱感作療法)
スリット減感作療法とは、花粉症、アレルギー、喘息の最新治療です。最大の特徴は、これまでの「対症療法」に対して花粉に反応する体質そのものを改善する「根本的治療」であることです。また、舌下で減感作療法をするため、注射をしません。現在保険適応になっているものはスギとダニの二つです。2014年10月よりスギに対して「シダトレン」、2017年10月より「シダキュア」、2015年12月よりダニに対して「ミティキュアまたはアシテアダニ舌下錠」が販売開始となっています。対象は5歳以上です。これまでも減感作療法と呼ばれる根本的治療はありましたが、注射で行うために頻回の通院が必要であり、また注射による痛みを伴うため、広く普及しませんでした。舌下免疫療法は自宅での投与が可能なため、より簡便です。原因となる抗原を投与し、徐々に抗原に反応しにくい体質に変えていきますが、アレルギー全般に有効な万能治療ではありません。また「アナフィラキシーショック」など、治療による副作用にも十分な注意が必要ですが、この4年間でショックになった方はおりません。
治療の前提として、スギもしくはダニのアレルギーであることを血液検査で確認する必要があります。確認後、製剤を舌の裏側に1日1回滴下して2分間もしくは錠剤を置いて1分間保持してから飲み込む治療を開始します。初回のみ副作用を確認するために院内で投与しますが、問題がなければ翌日から自宅で行っていただきます。シダトレンは濃度の薄い製剤から始め、2週間かけて徐々に投与する薬の量を増やしていきます。3週目以降は維持量となります。シダキュア・ミティキュアは濃度の薄い製剤を1週間、2週目以降は維持療法となります。これを3~5年間継続することが推奨されています。その間は月に1回の受診を続ける必要があります。またスギ花粉の舌下免疫療法は治療開始直後と花粉飛散シーズンに副作用(強いアレルギー反応)が出やすくなるため、両者が重なることは望ましくありません。よってスギ花粉の飛散時期(1月~5月)には新規治療を開始できません。
治療は70-80%の方に効果があり、完全に症状が消える方は20-30%程度とうたわれていました。実際に治療が始まると、90%以上の方に有効という報告が多いです。当院ではこの3年間で18名が開始しており、今のところ全員に効果を認めています。