2018.10月 インフルエンザ
インフルエンザの季節がやってまいりました。インフルエンザは例年、秋から徐々に患者が増えて1~2月の寒い時期に流行のピークを迎えます。ところが2018年は、昨年と同様にワクチンの予約もまだ始まっていない9月初旬、インフルエンザによる学級閉鎖のニュースが飛び込んできました。最初の学年閉鎖が2018年9月1日に大分県で報告され、その後茨城県や栃木県、愛知県、東京都などでも学級・学年閉鎖が報告されており、例年よりも2か月以上早く発生しています。いずれもA型です。昨年同様に今年も流行のスタート時期が「前倒し」になる可能性が騒がれましたが、今のところそれ以上の流行とはなっていません。今年度は例年並みのワクチン供給量が確保されているようですが、早めの接種をお勧め致します。
「インフルエンザ」とは
「インフルエンザ」は、ヒトの上気道に感染し、風邪様症状と高熱を特徴とするウイルスの一種です。タンパク質の性状によって、実はA、B、Cの3タイプに分類されます。A型は、ヒトや鳥、豚などの動物が感染します。B型とC型は一般にヒトだけが感染します。A型やB型に感染した場合、鼻水、くしゃみ、咳、発熱などの風邪様症状に加え、38℃を越えるような高い熱や頭痛、筋肉痛などの全身の症状が強く出ます。C型は感染しても通常の風邪と同等で軽い症状ですみます。
また、A型はウイルスの表面にある2種の糖蛋白質、ヘムアグルチニン(HA)とノイラミダーゼ(NA)の抗原性の違いから、複数の亜型に分類されています。これまで16種類のHAと9種類のNAが報告されていて、H1N1〜H16N9まで沢山の組み合わせのインフルエンザにかかる可能性があります。更に、同じ亜型であってもHAとNAの小さな変異でいくつもの株が存在します。現在、ヒトで流行するA型インフルエンザウイルスの亜型は4種類ですが、カモなどの水鳥からは、A型インフルエンザウイルスの全ての亜型が見つかっていて、水鳥に感染していたウイルスが野鳥を経由して家禽に感染し、家禽集団の中で感染を繰り返すうちに病原性を示す「変異株」が出現するかもしれません。この「変異株」がヒトに感染してしまうと、過去にかかったことがなく、免疫力を持っていないため致死的な流行、「新型」ウイルスとなります。
2018年度インフルエンザワクチン
日本では2015/16シーズンより接種するワクチンの中に4種類の“流行する可能性の高い”インフルエンザ株が入っています。
① A/シンガポール/GP1908/2015 (IVR-180) (H1N1)pdm09
② A/シンガポール/INFIMH-16-0019/2016(IVR-186)(H3N2) 今年より変更
③ B/プーケット/3073/2013(B/山形系統) 最近の流行株でWHO推奨
④ B/メリーランド/15/2016(NYMC BX-69A)(ビクトリア系統) 今年より変更
ワクチンの“有効性”と有効な期間
ウイルスのHA蛋白などの成分を皮下注射で体内に入れることで抗体を作らせて、本物のウイルスが入ってきても感染させないようにします。また、感染してもワクチンの接種により軽症で済むと言われています。ワクチンによる重篤な副作用の危険性は100万接種あたり1件程度です。毎年、流行を予測してワクチンを作っているために、その予想が外れた年は効果が低いことも知られていますが、健康な成人ではおよそ60%程度の発症を防ぐ効果があると考えられています。
ワクチンは接種してから1~2週間かけて抗体が作られます。そして、予防接種をして1ヶ月後に抗体の効果がピークになり、3ヶ月後ぐらいから段々と低くなります。予防接種の効果は一般的に5ヶ月です。インフルエンザは毎年12月頃に始まり、1~3月にピークを迎えるため、遅くとも11月が終わる頃までに接種を終わらせたいところです。この抗体は身体に残らないので、毎年予防接種をする必要が出てきます。
接種量は6ヶ月~3歳未満0.25ml×2回、3歳以上~13歳未満0.5ml×2回、13歳以上0.5ml×1回
予防対策
インフルエンザウイルスは感染者や患者の鼻水、咳やくしゃみによって飛び散る飛沫(しぶき)に含まれています。そのため、季節性インフルエンザの感染経路は、以下の二つ。
①飛沫を含んだ空気を吸い込み、鼻やノドの粘膜に感染する飛沫感染。
②飛沫で汚染されたものを触った手から目や鼻、口の粘膜に感染する接触感染。
インフルエンザウイルスは、物の表面に付着した環境下でも生存可能で、付着してから2~8時間は人への感染力を持つと考えられています。飛沫感染を避けるには、患者の看病をする時など患者の1~2メートル以内の距離で接する際や、流行時に人が混み合っているところではマスクを着用し、こまめにうがいをすること。接触感染を避けるには、こまめに手を洗い、汚染された手で目や鼻、口に触れないこと。咳が出るときは手やハンカチで口を押さえたり、マスクをしたりして、飛沫が周囲に飛び散るのを防ぐ、咳エチケットをみんなで徹底することが重要です。また、十分な量の手洗い洗剤やアルコール性(アルコール60%以上)の手指消毒薬(またはウェットティッシュ)をロビー・廊下・休憩室といった職場の共有スペースに準備しましょう。感染者の触れた物をエチルアルコールや漂白剤などで消毒しましょう。
治療
① 安静、水分、保湿。 外出は避ける。うつす/うつされる機会をなるべく減らすことが大切です。インフルエンザウイルスは熱に弱いので、微熱はあえてとる必要はありません。熱が高く苦しい場合などには適宜、解熱剤を使用。食事が摂取できない場合は補液が有効です。
② 抗インフルエンザ薬 現在使用可能な薬剤は5種類です。いずれも発症後早期(約48時間以内)に使用しないと効果が乏しいです。
・タミフル1日2回内服5日間。
・リレンザ1日2回、1回2吸入5日間。
・イナビル1回のみ。1回2本計4吸入のみ。
・ラピアクタ1回点滴静注のみ。
・ゾフルーザ1回のみ内服
解熱剤はカロナール、アンヒバなど(アセトアミノフェン)に限ります。
ゾフルーザ
2018年3月より承認を得た新薬です。1回のみ内服であり、前述の4種類と作用機序が異なり、インフルエンザの罹病期間はタミフルと同程度ですが、体内からインフルエンザウイルスが検出されなくなるまでの期間は、無治療(96時間)やタミフル(72時間)と比較してゾフルーザ(24時間)で有意に短いとされています。